倉橋孝彰詩集より 「廃船」
2018.03.30
 廃船

ほんとうに
船は生きていた

波のないとき
かっこよく
大海原を走り抜けた

嵐のとき
しょんぼり
港に佇(たたず)んでいた

五トン未満の
小さな船です

魚でいっぱい
ぎゅうぎゅうのイケス
破顔一笑の
漁師を運びました





ほんとうに船は
生きていた

トビウオが
船尾をかすめ
イルカが並走しました

魚が甲板を跳ね
巻き上げた網々
舳先(へさき)から
朝陽に包み込まれました

ディーゼルエンジンの
振動が懐かしい
船板を叩く波音が
いまでも聴こえます

ほんとうに船は
生きていた

「さよなら」の
挨拶は未だです





※倉橋孝彰 詩集:「境界」より 写真集:「象徴のモノクローム」から
2018.03.30 20:49 | 固定リンク | 文芸

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